36才の落語家
36才の落語家が老人ホームの落語会の高座に上がった。
優しくも落語家らしい毒っぽさを織り交ぜた枕、齢90前後であろう人々は皆笑顔。笑い声が絶えない。
開口一番は「動物園」
手作りの崩れそうな高座の上でライオンの歩きマネをする様子にヒヤヒヤしながら笑った。
人懐っこい表情の奥に凛とした芸への拘りを感じる舞台。楽しい落語だ。
二席目のメインの噺は「近江百景」
36才の落語家の出身である滋賀県が舞台の噺だ。
あまり高座にかからない話で、理由はつまらない噺だから。そう前置きしてから丁寧に八景の説明を始めた。
愛情深い故郷の説明はかれこれ20分ほど。聞き手も十分に近江の景色を思い浮かべ、いよいよ噺へ。
すると何故か舞台はいきなり吉原。
あれ。そうだった、そんな話だった。うん。
10分ほどにまとめられた彼の近江八景。
あっという間だったが、丁寧な話し口は直ぐに米朝師の同演目を思い出させた。
清々しい高座の最後。彼の退場を人生の大先輩たちは愛おしい眼差しで見送っていた。
良い落語会だった。
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